某月某日
「京洛之味風流記」 と書き出しながら、突然 新幹線の話になり恐縮であるが、そのオチは京 都となるのでご辛抱願いたい。
先日新横浜から新幹線に乗って京都へ帰るこ とになった。新幹線の食堂車はかねてから悪評 が高いので、こ数年のぞいたこともなかった が、一度その味の探険という職業的好奇心を起 してのぞいて見ることになった。
ところが、出掛けて見ると、以前に変りなく 大学の生協の食堂の中食時の大混乱の如き状態 で、そのウェイトレスの態度の悪いことも想像 以上である。
限られた空間を使って、或る程度の料金の上 限もあり、多くの人々をさばくというのは判る が、私は驚いて逃げ出してしまった。
このあたりで、”新幹線食堂のサービスの悪さ番付”でもつくって見てはどうかと思う。
というわけで、とも角逃げ出しながら、次の 車輌のビッフェで、スコッチウィスキーの小ビ 二本と氷の入ったコップを買って、席にもど った。何とか二本分を飲み終えるころには、驚 きもおさまり、やっと京都駅に着いた次第であ った。
タクシーですぐ先斗町に出掛け、お茶屋の経 営している小料理店で、美味しい京の味をいた づく事が出来、落着きをとりもどすことが出来 た。そこにたま知合いの日本の方も見え、 また芸妓さんもあらわれ、再び新幹線の食堂や、車内販売のおべんとうの批判会となった。
お茶屋のおかみさんの話では、最近では京都 のよい料亭のおべんとうを持って乗車するの が、流行との事であるが、電話一本で、京都駅 のプラットホームまで、とざけてくれる店が出 来ればと思う。
某月某日
このところ一流の料亭やホテルのレストラン のお料理が、色々の雑誌に美しいカラー写真入 りで紹介されるが、これがテレビで実際に放映 されるとなるとなかなかむづかしい。
というのは、テレビの画面に大うつしで出れ ば、実際のお料理を目の前にしている感じとな る。したがって、”流石にXホテルのお料理だ けあって、本当に美味しそうね”とか、“Y料 亭のお料理ということだが、案外だね、それに お値段も高いし……“といったはっきりした視 聴者の反応がすぐ出てくる。
このところ、いろいろなところで、サービス の低下だとか、お味が今ひとつ――などと云っ ているので、ある知人から、ではひとつ本格的 なものはいかが――とご案内をいたゞいた。
北欧はKホテルの有名なフランス・レストランである。
ちょうど『TV放映」特選フランス料理 ということで、テレビで放映されたシェフご自 慢の料理を入れたメニューである。
当日のメニューは、
○TV フレッシュフォアグラ薄切りとプティサラダの取合せ。
○帆立貝と手長海老のポアレ、レモン風味。
○TV 甘鯛のチーズパン粉焼き、エシャロッ ト風味ソース。
○グレープフルーツのシャーベットと季節のフルーツ。
○TV カナール(鴨)のポットフー
○フランス産フレッシュチーズ。
○当レストラン特製デザート。
○コーヒー。
というわけで、こゝでTVというマークの入っているのは、すべてテレビ放映されたものであるが、これらは勿論のこと、まだ放映されていない「帆立貝と手長海老」も大変結構なお味であり、小さなパイの皮がついていて、これが少し油濃いこのお料理にぴったりとする。
カナール(鴨)のポットフーも、晩秋から冬にかけての寒い日にふさわしい一皿である。
サービスの方も大変行きとゞいていて、お料理と共に、このようなすばらしいサービス振りもテレビで大いに、放映されると、視聴者の方に、本当のよいサービスというものがよく判っていたゞき、サービスの悪いレストランははや らなくなるのではないかと思う。
某月某日
古い伝統の中で”冷凍され”、大きな変化のないように見える京の街にも、このところ、いろいろな変化が起っている。
それは特にレストランとホテルの世界において起っている。歴史は浅いが、”味の名門”の ひとつに数えられていたフランス・レストラン の“L”が閉店となった。
その一方では、しばらく離れていた京の街を 歩くと、洒落たフランス・レストランや小粋な ビストロなどが目につくようになって来てい る。入口には手書きのフランス語と日本語のメ ニューも飾ってあって、たのしみがまたふえて 来たという感じである。今のところまだ多くの 店を廻っていないので具体的な批評はさしひか えるが、今年の春から夏にかけて探訪するたの しみが増えて来たのは、大変うれしいことである。
中国レストランの方では、ユニークな “I” が、河原町四条の近くに開いた”チャイニーズ ・レストラン・バァ”は、これまで京都になかったひとつの”新風”といえる。
ホテルの方でも大きな変化が起きつある。 名門の”M” ホテルは今増築中で、その完成が たのしみである。国際会議場のあたりには、新しいホテルの建設が進んでおり、 二条城の前でも、新しいホテルの建物が大分出来上って来た。
一方、京阪三条と出町柳を結ぶ鴨東線の工事も進んでおり、この開通が、また新しいホテルの開店を意味するのではないかという情報も流れている。
この”ホテル戦争”がすでにはじまっているのが、大阪であって、その現状を探訪に出かけて見た。それとなくしらべて見ると、この競争 は予想外にはげしい模様で、各ホテル共、結局 は”特長”を出すことと、”サービスの向上” しかないと考えているようである。
特にこれまで”名門”といわれて来たホテルほど、この二つの点についての懸命な努力が見られる。そのひとつの某ホテルの “D” ルーム という特別宴会場では、少し前にフランスから帰ったシェフの特別料理が準備され、メニュー にも、そのシェフのサイン入りという気の使いようであり、“自信”と”努力”がよく感じられた。
京都でも、今日の大阪、そしてあと、一、二年後の大阪と同じ状況が、あと二、三年後には更にエスカレートした姿で出てくるものと考えられる。
京都での調理専門学校の”名門”である某校も、四月より新しい校舎での授業が始まるようであるが、これも数年後の京都でのホテルとレストランの”大競争”への「布石」であると考 えている人々も多いようである。
某月 某日
日本料理の方では、伝統を誇る名門”の料亭はその”伝統”を守っているし、一方では、 観光客向けの和風レストランも、いろいろと趣向をこらしているようである。また東京に現われたようなカフェ・アンド・バァのスタイルをとり入れた”ジャパニーズ・レストラン”も 若い人々の人気を集め、大人たちも好奇心もあって案外ファンが増えつつあるようである。
色々と新しい努力の見られる岡崎にある某フランス・レストランでは、フランスから某高名のシェフを招いて、先日特別ディナーが開かれ たが、そのメニューは特筆に価する。
○カリフラワーの絹ごし クリームスープ
○フレッシュ・フォアグラ・ソテー
林檎とケパース添え
○丹波仔猫のロースのワイン煮
栗のピューレとキャベツの詰め物添
○グランシェフ風クレープ
コワントロー風味
○コーヒー
であった。
某月 某日
探訪やら情報集めにつかれたときは、静かに酒をたのしむのが何よりである。
今、先日新しく数寄屋造りの建物が完成したあるお茶屋の奥に出来た純和風のバァで、そのお茶屋の若いおかみさんと話をしながらスコッチ・オン・ザ・ロックスをたのしんでいる。すぐ前に鴨川の流れが見え、京阪電車が走るのが 見える。
この京阪電車も、数年の中には地下に入るので、また眺めも変るし、京の街のホテルやレストランの流れも変るのは自然の形であろう。その姿を頭に描いていると、おかみさんが静かに云った。
「さあ、もうおひとつ、いかがどす?」
某月 某日
むづかしい心理学用語を持出して恐縮である が、≪デ・ジャ・ブー≫というフランス語がある。「既視(感)」――つまり”いつかどこかで 見たことのある”――という意味であるが、これを持出したのは他でもない。
今、東京の原宿にいるが、今、日本でもっともファッショナブルという表参道を歩いて見ると、ふと口に出たのがこの≪デ・ジャ・ブー≫ である。パリをはじめいろいろのヨーロッパの 街、香港、そしてシンガポールなど、そんな色 々の街で見たものが、この通りに再現されている。シンガポールや香港にある高級中華料理店、パリの高級ブティック、屋外のカフェーそんなかつて見たことのあるものが、このケヤキの新緑が美しく映える表参道のキャンバスの上に”再現”されている。
”模倣” もここまでくると”再現”となる。京都の町で見かける“カット・ハウス”や“へッド・カット”などと今にも頭を切りとられそ うな恐怖心をいだかせるインチキ英語を使った 美容室の看板はない代りに、フランス語で堂々と、“ユワヒュール”(美容室)あるいは “オート・ユワヒュール”(高級美容室)という看板が出ている。
某月 某日
原宿は西欧や東洋の国々を“再現” するだけではない。そこでは日本をも“再現” している。そのひとつはジャパニーズ・レストラント・アンド・バァと書かれた “S”という店であるが、ウェイターもウェイトレスそれにバーテンダーも、その服装はすべて黒の作務衣(僧侶の作業衣) である。 店内は黒色が主調で黒塗りの大きなテーブルをかこんで十五人ぐらいが座れ、また右下の方には木の無地の丸いテーブルをかこんで、同じ形の椅子が並んでいる。 上の階にあるバァも黒一色で、テーブルには大きな壷に花が一杯活けてある。ニューヨークやパリに出来た日本のレストランをもう一度原宿へ再転入した形である。バックグラウンドミュー ジックは勿論ジャズである。
竹の子族で有名な竹下通を一寸裏の方に入ると今一番有名なのはブラームス通りである。このあたりには、超高級な和菓子屋があり、中にはお茶室もあって、 “純日本的な “環境でお茶とお菓子をいたゞけるようになっている。 さら にその近くには有名なパリのレストラン “M”の”サロン・ド・チー”の喫茶室があり、ベリ でお客とお菓子をいただいている錯覚におちいる。
今、東京でも有名といわれるのが、この表参道を少し入ったちょうど京都北白川の邸宅風のレストラン”A”である。ただ一列にキチンの前にカウンター式のテーブルがあるだけ(ただし二階と三階に別室あり)で、いつも予約が入っているが、流石にお味とサー ビスは超一流。しかも気の張らない店である。
ビールを一杯いただきながらメニューを拝見すると、前菜にふさわしいのが、「生ウニのムース」、太く濃いグレイでふちどりしたお皿に生ウニのムースがのり、その廻りを白いソースとグリーンのソースの輪がとりまいていて、 生ウニが三つと、アスパラガスが添えてある。 メインディッシュには、“ホロホロドリのロー スト、きのこ添え“をいただいたが、分量も多く大変結構なお味である。デザートには、同店おすすめの「アンズのタルト」と「フルーツ入プディン」そして、「グレープフルーツのシャーベット」と沢山いただいたがすべて大変満足のゆくお味であった。
某月 某日
外国からの友人たちが多く入洛したので、久しぶりに「しゃぶしゃぶ」をいただくため百万辺の近くの“S“へ出掛けた。この店の“しゃぶしゃぶ“はいついただいても、もう文句のつけようのないお味であるが、本日の仕上げの御飯はタケノコ御飯であった。それもチキンも入っていて、お肉をいたゞいたあと、普通の白飯では一寸あっさりしすぎるということを見通しての、心にくいお味である。 おつけものも二種類の他に、お肉味のキンピラゴボウもついてい このチキン入りタケノコ御飯にぴったりの お味であった。
某月某日
美味しいものをいたゞくという幸運がつゞ き、嵐山の“R”で夕食をいたゞく機会を得た。相当大人数の宴会であったが、当日のコー スは、内容の大変しっかりしたものであった。 メモを忘れたが、覚えている範囲で “復元”して見よう。
○前菜 ずいきの薄味つけ
○お造り 鯛、いか、とろ(下にしいてあった葵の葉があざやかであった)
○お椀 クズ引きしたハモ、シイタケとホーレン草、お吸物仕立て
○ 塗物の容器に入れた珍味 蒸したアワビ、手長エビとヤマメの空揚げ、他
○揚げもの よもぎ麩、クズあんかけ、ワサビ
○ミニ茶碗むし スッポン味、三ツ葉
○和風ビーフステーキ
○そして最后に竹の子のたいたもの
フキのたいたものを添え、 木の芽を一杯 散らしてある。
このあと御飯、お汁、おつけもの、フルーツ でしまるわけであるが、お料理に出された竹の子は太いところをやわらかく煮てあったが、御飯の方は細いやわらかなところだけを使ってあった。
宴会のお料理でなかなか満足のゆくものが少 いが、この”R”のお料理は最近いたゞいた中で、完全に “A”をつけてよいものであった。
またしばらく京都に落着いて味の風流をたのしみたい。同時にこの京洛の巻でも色々と大きな変化が耳に入るので、探訪をしょうと張切っている。
某月 某日
この頃面白い傾向は、これまで西洋料理(特にフランス料理) と考えられていたものと、日本料理との間の壁がなくなって来たことである。これは日本で流行の”国際化”という言葉が当てはまるかもしれない。
たとえば、Gホテルが自慢の懐石風フランス 料理のひとつを見ると、カットグラスのお鉢に 魚ぞうめんを敷き、その上にハモのおとしを盛つけ、トンボリとオクラの輪切りを飾りにのせ、ソースは梅肉とイチゴをうらごししたもの にホワイトワインを効かせた――というのが特長のようである。
一方、茶懐石の伝統を誇る某日本料理の専門家による夏の前菜のひとつは、ゆでたエビ、ダ イスに切った寒天、キウリなどを二杯酢であえ て、カクテルグラスにもりつけてある。 どうやら、今年の夏の京のお味は“コクサイ カジダイ調が主流だろうか?
某月 某日
「ホテルのバア」について研究して見ようと 思っている中に、ある人と待合せることになっ た場所が高野川沿いのHというホテルのバアで ある。このホテルは同じアメリカのHというホ テルの系列などで、バアの作りもアメリカ式である。
ちょうど陽が沈む頃であったが、四階にある このバアからの眺めはすばらしい。すぐ前には 下鴨の民家の屋根や森が見え、はるか向うには 西山の峰々がのぞめるという「雄大な絵」があ る。
忙しい時間を過していると、時にはこのよう な静かなバアで、たそがれてゆく空を眺めるの がたのしくなって来る。空の色、雲の色、そし て群をなして飛んでゆく鳥たちー。たしかに このホテルのバアでは、ぜいたくな時間をたの しむことが出来る。
そしてこれは多くの人々に知れてしまうとも静かさがなくなってしまうので、本当は秘密 にして置きたいのだが、午后七時まではお代金 が半分という大サービスぷりである。
そして、このバアの同じ階にあるダイニングルームも案外知られていないがお味も大変結構である。 特筆すべきは「冷たいコンソメ」で、 添えられたジュンサイが涼風を運んでくるようであった。
某月 某日
もう相当以外になるがスイスのルッツセルン の湖畔のNというホテルにしばらく滞在していたことがある。
ヨーロッパの良き時代の栄光の面影を残すこ のホテルには、初夏の頃にはヨーロッパの貴族 たちや、趣味のよいアメリカのお金持たちが泊 っていて、夕食前のバアはたのしい社交場とな る。ドライシェリィ・キール・ドライアーティ ニなどのアペリティフを飲みながら、夕食のメ ニュをえらんだり、今日であれば、FとかEと かの頭文字ではじまる 特ダネ専門の週刊誌が 特写”いや“激写”するような組合せの人た ちがあらわれても、グッド・イーヴニング *ボン・ソワール”だけで、誰もが他人を不 倫視”しないで、大人の会話をたのしんでい る。
ある夕方、みんなのトピックにのぼったの は、毎日プールでそのプロポーションの美しさ を誇っていた某夫人が、おへそに貼りつけてい 何カラットという見事なルビーが、プールの 中で行先不明になってしまったととうことであ った。
こゝでは、あとダイニングルームへ案内さ れ、食後のコーヒーとコニャックやコアント ローは、また別のバアで供され、大人たちの会話が葉巻の香りの中に消えて行った。
某月某日
「ホテルのバア」がまたつゞくが、 大阪 のホテルPへ、ある方から招待をうけた。
ここは四階にも洒落たバアがあり、お金のあ りそうな年配の方々が、一見正式の奥方ではな い若い御婦人と”F” や “E”誌に”激写”さ れる心配のないような顔で、お酒をたのしんで 居られるのもよく目につく。
このバアの便利なところは、すぐ隣りに鉄板 焼ルームがあり、お味をたのしめることで る。
さて、このホテルは最上階にもバアがある が、なんといっても、居心地のよいのは、一階 にあるバアである。街の中であるので限られた 空間をうまく活かした庭がのぞめるこのバアは 食後酒をゆっくりいたゞくには大変ふさわしい 雰囲気をもっている。
某月某日
「ホテルのバア」――の話題がつゞくが、こ のところ東京で新しいホテルがいくつか出来た のでバアのハシゴ”ということを思いつき、色々と廻って見た。
京都でも、Xホテルのバアで一杯いたゞいて 食事をし、食後酒はYホテルのバアで――とい うのを、どれだけたのしい組合せができるかを 考えて見るのも、大人の遊びであろうと思う。
某月某日
京都に新しいホテルが出来ると、他のホテル もまた活気を呈してくるということはこれ までに本誌でも何回か書いたことがある。
こう申上げると「なんと無責任な発言だ」――とおっしゃる向きもあるようだが、事実は”活気を呈してくる”のである。
さて、二条城の前に、先日Aホテルが開業し た。そのオープニングの少し前に、その隣に古 くからあるKホテルは、増築と大改装を行っ た。Kホテルの正面玄関も二条城の方を向き、 玄関を入ったところには広々とした、しかし落 着きのあるコーヒールームが出来、また新しい 宴会場も出来た。
これを機会に和食レストランも充実を見せて いる。Kホテルの中の“H”はその別室のセッ テングはすばらしい。一見フランス料理の店の ようなインテリアにうまく和風が合っている。 最近多く京風料理店のお味が”他所風”になっ てゆく中で、京風の味の伝統がよく守られてい る。お値段の方も理にかなっており、今年の夏 いただいた”近江牛のおとしと小芋のコース” は、いわゆる“冷しシャブシャブ”をメインと するコースであるが、お値段とサービスのスピ ード、そしてお味の三つの要素から見て、満点に近いと言える最近の発見であった。
ただKホテルの増築と大改装のために、これ までのメインバアがなくなってしまったのは残念なことである。
一方、新しく出来たAホテルのメインバアは 一階にあって、そう大きくないが洒落れたバア である。カウンターにすわると、航空機のファ ースト・クラスのキャビンでカクテルを飲んで いるような気分になるし、小さな別室やカウン ターの反対側では、小意気なヨーロッパのホテ ルの中のバアの気分がでている。
今、京都では宝ヶ池のほとりに新しいホテル の建設が進行中であり河原町通りには、Sホテ ルが開業、三条河原町のRホテルは東京資本の 経営となり、更に四条河原町のすぐ南にも新し いホテルの用地買収などと京都では再び新しい ホテルのラッシュが始ったようであるが、この そ各ホテルの”個性”と”サービスの質” が問題となってくる。
某月某日
今年の初夏から盛夏にかけては京都にいたの で、色々と京のお味をたのしませていただく機 会が多くあった。
大体、日本における風流の美学とは、少しひ かえ目に、少し押えたところにあると聞いてい るが、今年の初夏、最近のように何でも目さき の新しさを競うのが盛んになるが、これも行き すぎると”仮風流”になるようである。
御招待をうけたのに批判するのは心ぐるしい が、某一流料亭へ大変リッチな方からお招きを うけた際、お座敷で「ソーメン流し」が行われ た。青竹の中をソーメンが冷水と共に流れてゆくのをお箸でとらえていただくのはすばらしい 夏の風物詩になるが、そこに生きた若アユも流 されるのは、本当にイキな”味とはいえぬよ うに思えた。
すぐ数日たって、岡崎の “T”という一流料 亭へ招待されたが、先日も欧州のさる王室の方 々を迎えての晩さん会の開かれたこの料亭の最 近のお料理は奇をてらうことのないオーソドッ クスのお味であった。
勿論、床の間の飾りも初夏にふさわしいもの であり、お料理も京料理の伝統に少し新しいア レンジがされていた。デザートコースで出され た「クズ切り」には、オーソドックスな黒みつ に、ブルーベリイのソースが大体半分の割合で 加えてあり、味の新鮮さに驚いたものである。
南禅寺の近くにある一流料亭のひとつ “H” 「朝がゆ」も昔から奇をてらうことのないお味の伝統をよく守っている。
京の料理の伝統も、古いものだけを守るので なく、新しい冒険も必要であり、われ(お美 味しいものを待ちかまえている者にとって、新 しいお味は大変たのしいものであるが単に競争 のためとか、奇をてらいすぎたものは“風流” とは別の方向に進んでしまうようである。
時は正に美味求真の秋の季節、今年こそ 京洛にゆっくりと腰の動きを見 守りながら、より積極的に味の風流をた しみたい。
某月某日
日頃私の原稿の日本語訳を担当してもらって いる北大路雅博氏が、「朝日ジャーナル」の九 月十二日号に「なんといっても京のフランス料 理」という一文を投稿され、京都のフランス料 理のために気持のよい論議をされているので、ここに再録させていたゞきたい。
なんといっても京のフランス料理
朝日ジャーナル八月一五・二二日増大号で田 中康夫氏によるフランス料理店の今日的状況分 析を大変たのしく拝見しました。 しかし京都に おけるフランス料理店の今日的状況との比較が でてこないのは、残念に思います。
極めて偏見的な私見としては、ひとつの都市 におけるフランス料理店の今日像は、その都市 の文化的状況をあらわすと考えます。
その点では、京都こそが、京都の味の伝統を 持ちながらも、フランス料理を最も上手に受け 入れている本当の文化都市であると申せましょう。
もちろん味の本流は京料理です。しかし、そ の一方では昔から有名な「M」というフランス 料理店があり、一流ホテルの中にも、たとえば Kホテルの「L」、Cホテルの「A」のような 味のしっかりとしたフレンチレストランがあなど、決して他の大都市にひけはとりません。
新しいものは何でもとり入れるという京の伝 統は、いわゆる“ヌーベル・キジーヌ”の波を もうまくとり入れ、そこは昔からある懐石料理 風にアレンジして、「お箸でお召し上がりにな っておくれやす」――という次第。
しかし、このお箸でいただく和風フランス料 理も、先だっての「日本化ヌーベル・キジー ヌ」の風の吹く前からあるのです。 祇園の「T」 では、何十年も前から、これを出しており、し めくくりは〝おぶづけ”ときまっていました。
京の街全部のフランス料理店のサーベイは無 理としても、われわれが“文化租界”と呼んで いる左京区の一部だけをとりあげても、実に見 事な今日像が浮かび上がります。
お値段のことをいうのはあまりお品がよくな いように聞こえるが、お味、雰囲気、サービ ス、そしてお値段は、特に個人で仕払う場合、 重要な要素になっています。たとえば北白川の 「L」では、本格的なエスカルゴ・ブルゴーニ ュ風(半ダース)が何と八〇〇円、海の幸のコ キールも同じく八〇〇円、そしてカニのパイ包 み焼きも千円というお値段。さらに「シェフの おすすめコース」にしても三、三〇〇円から五、〇〇〇円までなのです。 たとえば、今日は少しぜいたくをしようと思 えば、 まず朝食は「H」の“朝がゆ”を優雅にいただき軽く”ニシンそば”などにして、夜はこの「L」で三、三〇〇円の「シェフおすすめのフランス料理」をいただいても、 一万円札でまだおつりがくるという次第。
ちなみに、本稿で、料理店の名前をイニシア ルだけでしか出さないのは、決して”いけず” ではありません。あまり多くの方々が見えら れ、味が落ちてしまうのをさけるための”自己防衛”にすぎないのです。
(朝日ジャーナル九月十二日号より)
某月某日
また今年の夏のことで申訳ないが、一寸面白 い経験があるのでご紹介したい。
ある一夕、大阪の郊外にある日本の料亭に招 待された。ご馳走になって批判をするのは心ぐ るしいが、これも職業としてお許しをいたゞき たい。
これはまだ開店してあまり日のたってない料 亭であるが、田舎にしては大いに背伸びしてし まった例である。というわけで前菜は、まあ日 本の高級婦人雑誌にある料理をまねたようなも の。おつくりは、ハマチ、マグロ、エビのおど りであるが、今流行の海藻を一杯もりつけ、更に大根のケンもどっさりと添えられ、見ただけ でびっくり。次がスッポン鍋で、固型アルコー ルをもやしたコンロの上の鉄なべに、お酒とシ ョーガ汁で充分にたいてないスッポンの切り目 片と (精がつきますよーと女将の説明 のごとく)、 ニラが一杯、なめタケが一杯、申訳けのようにオモチが一片、それにおろしショ ーガと荒く切った青ネギが一杯添えられてい て、まるで学生向きのスキヤキ屋風景。
次はガラスの大皿。 その上に丸いガラスのカ ップに一寸蒸してホワイトソースをかけたイチ ジク。その前にはカモのロースが二切れ、マヨ ネーズを添えたミョウガの酢づけ、キウリとハ ジカミで作ったトンボ。
――まるで幼稚園のお遊戯。
まともなのは次に出た車エビの塩焼。
そのあとのテンプラはハモの切り目に二センチ もある黄色のころもがついて、 茶センナスは、 四つに切り目を入れただけ。
――そのあとは覚えていないぐらいの田舎流 日本料理のホワイトソースかけ風で、結局まと もなのは、先程の車エビだけという次第。お女 将の話によると、今日は特別に料理長が腕を振 ったということであるが、料理の基本も判って いないような人が、甘い婦人雑誌の料理の写真 を見て、真似をして、都会風でございます と売出しただけというのは、あまり皮肉に聞え るだろうか?
お値段のことをいうのは、北大路氏に云わせ ると「あまりお上品がよくない」ようである が、どうやらこの一見都会風田舎懐石料理は、 一人前二万五千円であったらしい。まさにお招 いただいたホストの方に申訳けないが、帰り に京都のあるお茶屋さんのバァで知り合いのゲ イシャガールと話していると、”最近京都でもこんな料理を出さはるとこ 多おすえ”との事であった。
某月某日
鴨川の床も、もう終りという日、ある方からお招きをいたゞいた。
四条より少し下ったところにある古い料理旅 館の床でいたゞいた夕食は、これまた大変結構 で、流石に美味しいお味は京都であることを再 び痛感した。
某月某日
京都の国際会議場のすぐ隣に建築中であった Pホテルが完成した。
新しいものはすぐ研究という私の職業意識と 何でも新しいものにすぐ飛びつく友人たちに誘 われたのとで、すでに三回とのホテルを訪ね た。
京都の中心からは相当はなれているという点 は別として、大変めぐまれた環境にあるのが、 このPホテルである。 東京の芝公園にある同系 列のPホテルなどと同様に、天井の高いロビー などの、いわゆるパブリックスペースの広さ と、淡い色調はゆったりとした気分にしてくれ る。
同様に淡い色調のメインバァも先づゆったり とした感じをあたえてくれる。前号に書いたよ うに、京都の一流ホテルのバァめぐりをするとき先づゝを出発点にするのも面白いと思う。
このホテルの中華レストラン “T”は、やは 東京の芝公園にあるPホテルの中の “M”と 同じ雰囲気、つまりフランス調のセッティング の中の中華レストランである。
この原稿を書いている現在では、まだ開業の 日から、僅かしかたっていないので、多少はじ めに不慣れなところもあったが、これはいづれ 改善されてゆくと思う。
たゞ残念なのは、美しい中庭や、よい自然環 境があるのに、それらをのぞむことの出来るバ ァが、もうひとつあっても良いのに――ということである。
某月某日
秋も深くなったので、久しぶりに山端にある “H”で、落鮎の料理などを賞味したいと思っ ている中に、テレパシィが通じたのか、御本人 も”美味求真”を生き甲斐とされている日本の 方からご招待を受けた。
高野川の清流をのぞむところに建てられた離 座敷で少し早い目の夕食をいたゞいた。
流石は川魚料理を誇るこの料亭だけあって、 先づ出されるのが、フナの洗いと、洒落た小鉢 にヤマメのウニ和えである。 そしてすぐ「吹き 寄せ」風の前菜が出る。
そのあとは松茸の土びんむし。――本日は特に「蒸しもの」を中心というので、そのあと、「かぶらむし」が出る。底にウナギを入れた 「かぶらむし」も、ちょうどよい程度のあつさ である。そして待ちに待った見事な子持ちの落 鮎の塩焼きがついに現われる。
最後の「蒸しもの」は、潮汁仕立ての味に、 グジの頭、卵豆腐、はもなどが入って、紅葉おろしを入れたポン酢でいたゞくことになる。
いよいよ日は落ちて、川の瀬音が心地よく耳にひびく。時々庭の「ししおどし」が”ポ、ポ ーン”と静けさを破る音をたてる。 この音の効 果も、美味しいものをいたゞく時の重要な効果 となる。
この料亭のお食事の「しめ」は、何と云っても、 「麦めし」と「とろろ」である。
フルーツは、富有柿とブドー二粒――これ以上の、こったフルーツは必要ではない。
うれしいのは、最近の見た目だけの技巧をきそった日本料理の多い中にあって、この”H” では、そのような”てらい”がなく、殆んど伝統的な方法で料理され、供されるということである。
晩秋の一夕、まことにたのしい夕食であった――と招待主に厚くお礼を云った。
某月某
しばらく離れていたので、ニューヨークにとどいていた雑誌などが、沢山廻送されて来た。
ちょうど今年の夏の料理雑誌なども沢山入っていて、この季節によんでみるのも、 大麦風情がある。
来年の夏、といわずとも、最近では冬でもよ く暖房が効いていて、案外冷たいものを、美味 しいたけるので、機会があればためして見 たいのは、「ガスパチョ・アイス」である。こ れはガスパチョ・スープにゼラチンを加え、凍 らせたあとシャーベット風にし、更に凍らせ て、アイスクリーム・サーバーで丸く抜き、紙 のように薄く切ったキュウリの上に一人三個宛 盛りつけたものである。
これをガラスの中皿にのせ、更にブルーの美 しい大皿にのせると、トマトの色を少しオレン ジ色にしたようなこのアイスの色が美しいコン トラストを見せ、急に食欲がでてくる。 以上
某月某日
最近はいろいろと驚かされることが多いの で、いちいち驚いていては心臓のとり代え用を いくつか持っていないと生きて行けない時代である。
しかし先日、大阪のある超一流ホテルでの中 食会では大きな驚きをうけた。
実はヨーロッパのある重要人物が目され、 その歓迎の中食会が開かれ、私も招待を受け 席をけがした次第であるが、最初、歓迎の乾杯 が行われ、シャンペンが抜かれることになっ た。一人のウェイターがポーンとシャンペ ソを抜くと、それに合せて何人かがポー ポーンと勇ましく音を立てて、大変結構なお味のシャンペンが抜かれた。
かつてある本で、パリの有名なレストランで ある “M” では、もしシャンペンを抜くとき音 を立てる者があれば、その従業員は即座に首に なる――ということを読んだが、幸にこの大阪 の某超一流ホテルでは、そのような不幸なこと はなかったようである。
尚、とのヨーロッパの重要人物は、流石に異 国に於ける”異ったマナー”を充分理解され、 顔色ひとつ変えることなく常に微笑を見せてお られた。これは流石だと申せましょう。
さて、シャンペンで乾杯が終ると、ウェイタ ーやウェイトレスが、”おビールは如何ですか”とか”ジュースはいかが”とすゝめに廻る ので、第二回目の驚きを感じたが、私は”シャンペンをいたゞきます”――と大変結構なお味のシャンペンだけをいたゞいた。
某月某日
束になって転送されて来た雑誌の中から、 “GOURMET“ (グルメ誌)を見つけ出した。 この雑誌は見るからに食欲をそそる美しいお 料理の写真でも有名であるが、一寸見て、”おや、日本の懐石料理が――”と驚き、本文を見ると、何とこれが、最も新しいスタイルの中国料理である。
一時熱病のように世界中にひろがった、”ヌーベル・キジーヌ”(いわゆる懐石風のフランス料理)も、そのはじめは、美しく目に訴える色と形の調和――をうたい文句に登場したが、その前身ともいうべき 古典派フランス料理 のもつ豊かさ”を否定する方向に進みすぎて しまって、形がうすくなって来ている。
そこで登場するのが”高級フランス料理と中国料理の組合せで”ある。これは北部スイスの Sという町のライン河畔にあるFというレストランである。このFのオーナーであるA・J氏その中国人の夫人は、四年がかりでこの新しいスタイルの中国料理を開発したという。
そのひとつを見よう。先づ四角の黒塗りのお盆。その向って右側には染付けのお箸置きの上に縦に象牙のお箸が一膳。 真中の上の方にはノゾキ風の染付けにお醤油が入っている。 左上端にはヒイラギのような葉が三枚と白とピンクのデンドロビウムのようなランが一輪、そして真中から左側にかけて四角の浅い竹をあんだザ ル。その上には、エビとヒラメの身を入れた揚げギョウザのようなものが盛りつけてある。
次も同じように濃緑の八角形のお皿に前と同じように縦に象牙のお箸が置いてある。 中央にはマリネしてテリヤキソースをつけた厚切りの サーモン。その上にはチサの葉ときざんだキャベツをゴマを入れたドレッシングであえたサラ ダ。お皿の右上には小皿にツーサイと思われるものが添えてある。左上にはツタの葉二枚の上に黄色の花が添えてある。
さてスープを見よう。 染付の大体が銀製の台の上にのせてある。これはカレー風味の中華コンソメ。コンソメはチキン仕立てで、ワンタンが浮んでいる。ワンタンの中身はエビやショーガなど。青ネギを細く切ったものを浮べて色彩 を引立たせている。
――こうして見ると何やら、最近日本でも現われて来た懐石風中国料理である。この新風中国料理がスイスと日本から出て来ているのは面白い。
某月某日
東京の原宿での流行にきわめてくわしい友人の案内で、今一番新しいという日本食レストランに入る。
階段を上ったところは、洒落たヨーロッパの レストランについているバアを思わせるカウンター。すべてのグラス類は特別注文でつくったという。
ウェイトレスは、原宿の一流ブティックのハウスマヌカンを引抜いて来たという感じで、サービスのマナーも大変よく出来ている。バックグラウンド・ミュージックは、今最も流行の”環境音楽”
次の間がダイニングルームでやはり、フランス・レストランのようなテーブルと椅子。もちろん出されるのは日本料理だけ。それが、本号で紹介しているスイスの最も新しいスタイルの中国料理に非常によく似ているので、流行のスピードには驚いた次第。
某月某日
今年のお正月は久しぶりに京都で過すことが出来た。
元旦の朝は京風の白味噌仕立てのおぞう煮、 おせちは、ある友人からフランス料理店の豪華な洋風おせち詰合せを贈ってくれたので、伊勢エビの冷製などを賞味させていたゞくことが出来た。
日本のおせち料理の中では、珍味といわれるものの中でも、私にとってはあまり強くないものもあるので、何軒かの家やバァなどへ招待されても、お正月の松の内には、カズノコと黒豆 とゴマメが必ず出されるのは一寸困る場合があ る。
二日に招待された某氏宅では、そのようなも のは一切抜きで、スモークド・サーモンと見事 なビーフステーキという結構な夕食であった。 また三日の某氏宅では、前菜は、厚いレモンの スライスの上にイクラを盛りつけてあった。豪 華なタラバガニの足だけが出されたあと、昨年 秋の貴重な松茸の冷凍をつかった松茸御飯が印 象的であった。
このように気のきく人々は、お正月の伝統を 守りながらも、いかにお正月の食生活をたのし くするかを考えはじめている。また四日のランチに招待されたお宅では、メルバトーストぐらいのこんがりやいた薄いパンに洒落た珍味を せたオープン・サンドウィッチやフルーツサラダなどが出され、よく冷えたシャンペンが抜か れたのに感心した。 お正月三ヶ日のあと、このような洒落たランチをいたゞくと本当にたのしくなる。
某月某日
このところ日本はすさまじきグルメ・ブームである。
多くの百貨店でも、一流のホテルやレストラン、料亭などがご自慢の品々を販売されている し、軽い食事のできるコーナーなども設けられ ている。しかしこれも実は「クセモノ」で、案 外名前だけでお味はどうもという場合も多い。
何分、食い気の方が先走りしている私なので、ある百貨店の軽食コーナーで、二軒トライして見た。先づある有名なおそばやさんの出 店で親子丼をいたゞいたが、流石に本式 の仕上げで、お味もしっかり。サービスという ので、おそばもついてお値段も理に合ってい る。
同じコーナーのあるウナギやさんで、天丼を 注文して見た。結論を申上げるとお値段は一流 で、お味は大学生協食堂風。 小さなエビを大き なコロモをつけたのを二匹と、サツマイモの大 きなのを二切れ、そしてびしゃびしゃになった大葉を一枚、ひどいお味のタレを一杯かけてお茶 清風。
隣りの人に出しているお料理を見ていると、すでにつくってあるダシ巻きを二切れ切って、電子レンジに入れてチーン。見るからに不味そうであった。
某月某日
毎年一月の某日、大阪のRホテルで開かれる新年のパーティでは、同ホテルのお料理がたのしみであるが本年も裏切られなかった。
例年の如く日本料理の屋台が数軒ならび、同時に西洋料理の方も色々と趣向をこらしている。
「海の幸」のコーナーでは、新しいウニ、車 エビの冷製、カニの足、そして冷製のロブスタ ーなどがふんだんに出されている。
今年は「しゃぶしゃぶ」、「鉄ぱんやき」、 「西洋風お好み焼」といった趣向もあった。
テンプラなども見事な車エビを軽くあげ、味塩を軽く振って供された。
感心したのは、お寿司の屋台のところで、熱い日本茶が出されたことである。今までお寿司の屋台があっても日本茶が出されるのは少なかったが、これこそお寿司にぴったりであるし、 流石によく気がつくと思った。
デザートには色々のフルーツ(それも小さな 西瓜を四つ切りにしたものを人前として出さ れる)、小さなお菓子、そしてアイスクリーム はお正月のお祝いというので、 「小豆入り」で ある。ウェイターの方が、フランス人らしい外人に、これは何のアイスクリームですかと聞か れているので「アリコ・ルージュです」と教え てあげると、「どうも有難うございます。 サン キューサー」と礼儀よくお礼を言われたので、 流石にこのホテルのウエイターのしつけは良い と感心した次第である。
尚、このパァティの屋台で、いわゆる日本の お正月料理に類するものとしては、「子持ちワ カメ」という旗を出した屋台だけであるという のも特筆に価するといえよう。
某月某日
近着のアメリカの “N”誌には、アメリカの超一流ホテルチェインである”F”ホテルズの 広告が出ている。
その見出しは面白い。
「お客様のご要望にお応えできるのが一流ホテルです。
そして、
お客様からどんなご要望が出るかを、前以て 予期して、備えているのが超一流ホテルです」
さて、この”F” ホテルズがその例にあげる のは”オルタナティヴ・キジーヌ・メニューセレクション”と呼ばれるもので、カロリーを気 にするお客様のため、普通のお料理の味をそのまま活かしつゝ、しかも低カロリーのお料理にヨーグルトのクリームをのせたベークド・ポテ ト、パセリ、キヌザヤ、人参添え、次の日は ”チーズもどきの”トーフをのせたピザ、ちりめんキャベツとコーン添え。
とも角、アメリカで健康食としてトーフがいろいろの形で出てくる。
某月某日
日本の週刊誌 “S” に、先日東京で開業した きわめて高級なホテル “S”の記事が出ていると、日本人の友人が話してくれた。
すでに本誌にもかつて、ホテルはいづれ大きな宴会や大勢の宿泊客を対象とする大型ホテル と小型高級ホテルに分れるだろうと書いた事が あるが、ついに東京にも、その本格的なのが出 現したようである。
京都には昔から超高級日本旅館があるので、 別に珍らしくないが、矢張、洋風のこのような ホテルが早く出現してほしいものである。
某月某日
近頃東京では”地揚屋” とか呼ばれる土地の 価格をつり上げる商売が大繁昌で、ついに京都 の三条通や四条通にも、土地買占めの波がよせ ているようである。
その影響もあって今、京都の熱い注目を集め ているのが、烏丸四条のあたりであるといわれ ている。今の河原町通りに比敲するような姿が 出現しそうである。
ここにはすでに“K” ホテルが”からすまK”ホテルを開業していてその先端を切ってい る。このホテルにはその”本店”である”K” ホテルと殆んど同じレストランがあるので大変 便利である。このメインバァは、本店のメイン バァよりも静かである。 さらに、地下には、ス テーキハウス(鉄板焼) があるが、こも大変 落着いた雰囲気で、 十名足らずしか入れないというのは、ちょうど小型高級ホテルにあるステーキハウスという感じである。
ここの鉄板焼のステーキは極上の近江牛を使 っているので、大変結構であるが、同時に甘ダイ(グジ)を鉄板で焼いてもらって、レモンと 食塩だけでいたゞくのもまことにすばらしい。 どうも順序が反対になるが、牛肉を充分にいた いたあとでも、さらにいくらでもいたける――――という美味しさである。
このステーキハウス “T”は、サービスも大変よく、今後京都で小型の超高級ホテルが出来 たときの、小型ステーキハウスのよい母型となるものと思う。
さらに今後の烏丸四条を中心としたゾーンに 出来るレストランなどのお味を探訪できるのがたのしみである。
某月某日
今、京都の街では大きな波乱が起きている。 それも南北では御池通から五条通まで、そして 東西では烏丸通から鴨川ぐらいまでが、その中心のようである。
これは他でもない関東勢による目抜通りの土 地の買占めである――といわれているが、これ は同時に京都勢の巻返しをもひき起し、京の街の活性化が起るかもしれない。
河原町通の今後がどうなるか――と考えていたとき、少し前に河原町松原の東側に開業したホテルSを訪れる機会があった。お目当ては十階にある「レストランI」である。
このレストランは外部からのお客も多いの で、入口にコートを掛けておくハンガーが沢山 並んでいるのは大変便利である。このようなコ ート掛けのあるレストランは日本には案外少ない。蹴上にあるMホテルのメインバーの入口にも、コート掛けがあって大変便利なのをよく覚えている。
さて、この「レストランI」の入口には、バァが あって、一寸食前に一杯いたゞきながら最近の 京の街の美女の噂などをするのに、最適である。 このレストランの自慢のひとつは、鴨川から 東山に至る眺望である。 夜になればネオン化粧 の光景が浮び上る。
ここのメニューは豊富であるが、当日支配人 のおすゝめは「おまかせフランス風割烹」であ った。
前菜は赤い塗のお盆にお箸を添えて供され た。カクテルグラス入りの貝柱マリーネ、チキ ンのテリーヌの短冊切り、そしてワタリガニの 足の唐揚げに、揚げた生ユバが美しく飾りつけ てある。
次に「白身の魚のテリーヌ」に小さい沢ガニ の唐揚げが添えられ、小さく切ったトマトサラダが美しい。
「カモのロース」には、お刺身のケンのよう に切った大根が沢山盛りつけて添えてある。
こゝで、「野菜のスープ」が出て、次はエス カルゴが銀のカップで出されるが、上は「レディ・カーズン」のようにチーズが一杯入ったパイの皮でカバーされている。
「甘ダイのサフランソース」、「ローストビ ーフの薄切り、ベークドポテト添え」、「野菜 のサラダ、ハンガリアンソース」 と供されたあ と、前菜のときと同じ赤い塗のお盆の上に 「茶 そば」が出される。 この「茶そば」にはニシン とカマボコが添えてあり「京風ニシン茶そば」 でしめくくりというわけである。
デザートはアイスクリームにイチゴが添えて あり、コーヒーをいたゞくと、すっかり満腹と いう次第で、東山の夜景を眺めながら、京風に アレンジされたフランス料理をたのしくいたゞ くことが出来た。
この「レストランI」のサービスは全部ウェイターで、しかもよくマナーを心得たサービス振りはうれしかった。
某月某日
「ダイコン」と「ナスビ」は、そのまゝロー マ字綴りで”Daikon” “Nasubi” として、アメ リカで市民権を得たようである。
近着のあるアメリカの料理雑誌には、エキゾチック(異国風の) 野菜として、 「ダイコン」 (Daikon)、 「ナスビ」 (Oriental Eggplant)、 そして「レンコン」 (Lotus Root) などが紹介されているので、その一部を引用して見よう。
「ダイコン」――普通店で売っている大根は 重さ九百グラムぐらい、長さは六十センチぐらいであるが、日本においては、この大きな白いラディッシュは小さな赤ん坊ぐらいに育ってい る。「ダイコン・オロシ」はスシと一緒に供される。また大根スライスにしてサラダとしても供される。大根は煮るとカリカリとした歯ざわりは失われるが、形はくづれない。
夏に成長する大根は辛味があり、冬のものは 辛味が少ない。大根には酵素とヂアスターゼが 含まれていて、デンプンの消化を助ける。それ お米と共に大根が供される理由が判るのであ る。
「レンコン」――蓮根は中国と日本の料理と美 術によく登場する。もちろん蓮の全部は食用に 出来、また葉も料理に使われるが、何といって も根が一番よく使われるのである。スライスす る前の蓮根は――水中で育つのであるが――大きな茶色のソーセージのような形をしている。 生で食べるとザクザクした味がする。これを煮 るとサツマイモのような味になる。
某月某日
東山七条にあるPホテルの地階にあるメイン バァの前には竜安寺の石庭を模した庭があっ て、たのしい眺めである。一夕ある人と、このバァで飲んでいたあと誘 われて同じ地階にある京料理の“O”で夕食をすることになった。
窓側に坐ると、バァから見た石庭の別のアングルから見た顔が見えるのはたのしい。
さて、この”0″のあるコースは、あざやか 前菜からはじまる。先づお盆の中央に桃の一 枝を飾り、左上には、小鯛のスシ、右上には、 おつくり用のノゾキのような超小型の入れもの にナマス、そしてモロコを一匹。
すぐつゞいて、小さな器で「タケノコのおじや」、そして「若たけとイカの木の芽和え」が供され、たっぷり分量のある「タイのおつくり」は菜の花の上に美しくのせられている。
お椀は、カモとなまふ、そのあとは「たき合せ」で、タイの子とイイダコが早春の野菜と共 にヒナ祭りの料理のように、ちんまりと盛りつけてある。
焼きものは、マナガツオの粕づけと、小イカ の焼いたもの、お皿の右上には、超小型の器に ワカメと菜の花を小さく切った上に、ねりウニ を角切りに散らしてある。
油物は、平凡なテンプラを避けて、エビ、ヨモギフ、アナゴなどを入れたものをアゲダシにしたものに、ショウガ味のアンをかけ、黒楽茶碗のようなお椀に入れて供される。酢の物も、カラ ッと揚げた白魚とウドなどの酢のものである。
あとで飯と共に供される味噌汁は、白味噌仕立てで、別によく煮た大根と引き上げュバがうまく調和している。フルーツはイチゴ。
ここのお料理のうれしいところは、奇をてらったところのない伝統的な京料理の中に、さりげなく新しい趣向を見せているところで、器もすべて洗錬されている。今京都で超一流といわ れている料亭のお座敷で、このようなお料理を いたゞくとすれば、この”0″でのお値段の少くとも三倍は請求書についてくると思われる。
よく慣れた仲居さんたちのサービスもすばらしい。もしたゞひとつだけつけ加えると供されるビールのブランドが限定されていることであるが、これは日本の他のレストランでも、そのようなことがあるので、特別に注記する必要がないかもしれない。
某月某日
懐石料理ブームも、いよいよ来るところまで来た感じである。
日本の高級な婦人雑誌も、懐石料理の特集がつづいているし、大がかりなかざりつけや、技巧が目につきすぎる感じもある。また一皿、一 皿の料理の名前もこりにこって、「和歌の辞典 でもしらべないと判りませんよ」――と日本の友人が云っているぐらいになっている。
またこれと平行して、いわゆる「懐石料理風 フランス料理」のヌーベル・ギジーヌの方も、 日本では大いにエスカレートして、日本の懐石 料理と変らぬようなものまであらわれて来ている。
先日これについて、あるレストランの御主人から意見を聞かれたので、「これこそ、まさに 国際化時代ですよ」――――と答えておいた。
そんなとき、ある方からお招きをいたゞいた 夕食は、ある茶懐石の本家によるもので、流石に、大がかりなかざりつけや、技巧は目につかぬが、本格的といえるお味と、美的効果で、 「ミッシュラン」流に云えば、 “星を四つ”――――というところであった。
京の巷の噂によれば、京都の超一流の料亭の いくつかは、すでに大手の電鉄系の企業に買収されてしまったとの事である。これらの料亭が、どう変るのか、鉄筋の大きなビル風になって大衆化するのか、あるいは、更に超高級路線をたどるのか、今のところ判っていないが、これらの動きが、京都の懐石料理の動向にも大きくかかわっているので、気にかゝる今日此頃である。
某月某日
河原町御池の近くに土地をもっているある日 本人の友人の話によると、今、京都以外の大 本が狙っているのは御池通りであるとの事であ る。その友人の話では、十年後には地下鉄の東 西線が御池通りを走るというのが、そのひとつ の理由である。
先日、フランスから来た友人たちと御池通りを歩いたあと、御池通りを眺めることの出来るあるバァで話をした。
C夫人によると、白川通りや、北山通りは別 として、京都市内で、並木の多い通り、しかも 街の中心部は、この御池通りしかないし、東京 の表参道に比敵できるという。この御池通りの両側にもっと多くの高級なレストランやバァ、ブティックなどをつくり、屋外カフェを開き、 週末には歩行者天国にすれば、すばらしいでは ありませんか――ということである。
新緑の美しい季節に、屋外のカフェで一杯い たゞきながら、通りすぎる美女を鑑賞したり、 また小雨の夕べは、二階にあるバァから、通り の模様をながめるのもたのしいことですね――と合づちを打ったが、新しいアイデアを持つ人々をにぎっている大資本は、すでにこのような構図を描いているかもしれない。
たまたまそのバァへ、友人のK氏が入って来て、合流し、ビワ湖あたりのホテル戦争のトピックスが出た。
東京系の某ホテルがビワ湖畔に、大きなホテルを計画しており、これに対抗して、すでにあるBホテルは大増築とのことである。
大体、京都とビワ湖畔とは、車で三十分間ぐらいで結べるふたつの点であるので、これはもう”大京都観光圏”の問題である。そして比叡山にあるHホテルは「京都市内」にあるということは、京都の大ホテルが、宿泊施設、食事、 宴会、サービスなどの点で、どのような顕著な特色を出してゆけるかということである。
また京都のホテル業界もひとつの新しい時代に入りそうである。
某月某日
ビワ湖畔のホテルで特色のあるイメージというものを考えている中、近着の「ザ・ニューヨーカー」誌の頁をくっていると、フランスの高級な紳士服のブランドのひとつである”L”の 美しい広告が出ていた。
場所は、南仏のコートダジュール海岸。優雅なホテル”M”である。ちょうどビワ湖を思わせる水、そして遠方左手には山々が見える。
“貴族風のエレガンス”を強く押し出してい る”L”の紳士服は、このような高級リゾートに合せて、オフホワイトのスラックスに、上着 は、オフホワイトにグレンチェック、ヴェスト とタイは、ペイズリィ模様の同じ共生地。 そし てうすいクリーム色のシャツのカラーには横に あざやかなシマが入っている。
このモデルの紳士の立っているのは白いテラ スで、白いクロスをかけたテーブルの上には、 大きな銀製のシャンペン・クーラー。もちろん この紳士が手にするのは、シャンペン・グラ ス。
これは、ごく一部のホテル、たとえばK・H ホテルなどをのぞく、ハワイの一流ホテルとは 対照的な光景である。
また、この「ザ・ニューヨーカー」誌の同じ号に、フランス航空の”パリ貴族風御滞在一週間プラン”が紹介されて、ホテルは超一流のホテル”C”となっている。毎日の朝食は、このホテルの”L・A” レストランで、こゝでの夕食も一回入っている。
この広告にでてくるシーンは、やはりこのレストランでの夕食で、きわめてエレガントなセッティングのレストラン。もちろん今サーブされているのはシャンペン。
このようなきわめてエレガントなホテルやレストランが、ビワ湖畔にできれば――もちろん 周囲の環境づくりにも大きな問題はあるが―― 日本でも特長のある高級リゾートホテルやレストランとして、大きな競争力を発揮し、本当に高級な客層をつかめるのではないかと思う。
京都のホテルのバァのはしご
マークM・ウッド
(1)
京都の大きなホテルのバァをはしごするとなると、一応ふたつのコースが考えられる。 出発点はJR京都駅のあたりとして見よう。
そして、まず「時計の針と逆の方向」に廻って見よう。
出発点は京都駅南口の東筋向いのホテルHのバァ。このバァからは京都市の南部と東山の峰々がよく見える。こんなところがあったかな――などと新しい地理の発見も出来るし、こゝからこゝまでの土地を買占めれば何十億円かるかな――などと「地揚屋」的思考ゲームもたのしい。
次は京都駅の北側に出ると、Cホテルの二階のバァは駅前にあるとは考えられない程 静かなバァである。落着いたインテリアと西洋 のアンチークがうまく生かされているので、ち ょうど大きな客船のバァの雰囲気である。
このCホテルには、フランス料理の美味しい レストランや天プラバァもあるが、次にまだ飲 むべきところがあるので、一応食欲の方は押え て北に向うとする。しかし、こゝではコインかダイスを使って、コースを決める必要がある。 つまり、東山通りコース、河原町コース、そして烏丸通りコースの三つがあるからである。
この占いで、東山通りと出れば、次は三十三 間堂のとなりにあるPホテルのバァが待っている。竜安寺の石庭を思わせる庭がのぞめるバァ ――というのは大変ユニークであり、美女をつ れてこのバァのカウンターで、石庭の造園につ いての知識を披露するのもさまになるし、また ひとりで、ドライマーティニなどをいたゞきな がら、静かに庭に見入るというのも、今日的な言葉で云えば、インテリジェント”な紳士の生き方とほめることができる。
占いで、河原町コースと出れば、四条に出る前に、東側にはSホテル、西側にはRホテルがあり、Rホテルの方は静かな街のバァであり、Sホテルは最上階にあるので、東山の風景がたのしめる。
河原町を三条まで上ると、右手にあるのはRホテル。ロビーの奥にあるバァは一寸人目につきにくい穴場である。
烏丸通りコースの占いが出れば、四条の手前にK・Kホテルがある。この地下一階にあるバァは四条あたりのにぎやかさとは切り離されたきわめて静かで、しかも重厚な雰囲気で古いヨ ーロッパのバァにいる気分である。
さて、この三つのコースをたどっても、いづ れ到達するのは御池通り。そこで河原町御池の角にあるKホテルの二階まで――。目的はこのホテルのバァ。大変足場のよいところにあるバ ァである。こゝまで飲み廻ってくると少しおな かの方も――というときは、冬の季節であれば何といっても的矢のオイスターの新鮮なの にレモンをかけて半ダースぐらいいただくとお酒の味も一層よくなる。夏であればスモークド ・サーモンをいたゞいても結構である。
あと数分歩くと鴨川沿いにあるホテルFの地下のバァ。このバァも石と水と緑をうまく組合せた庭が見えるたのしいバァである。
次はタクシーで蹴上まで――。目標はMホテルの三階にあるメインバァ。重厚な雰囲気の中に、あたかさのこもるこのバァは何と云っても抜群である。
このホテルにも和洋両方のいレストランが あるが、そのたのしみは次の機会にして、少し バァでいたゞくとすれば、ステーキ・サンドイ ッチか、クラブハウス・サンドイッチである。
こゝでいよいよこのコースも「上り」となるわけであるが、このMホテルから東北にそびえるのが比叡山であり、その山にあるHホテルが目標である。北白川別当町から右へ廻り、タクシーでは二十分ぐらいで、このHホテルにつく。
このホテルのバァは小じんまりしていて、落着く上に、リゾートに来ているという気分をたのしめる。そしてこゝは特に冬の頃がよい。降りつもったばかりの新雪をグラスに入れ、ウイスキーをそゝいで飲むと、本当に冬の味がする。この乾杯で「時計の針と逆の方向」廻りのコースもめでたく「上り」となる。
(2)
今度は「時計の針の方向」に廻るコースのスタート。そのキック・オフは、京都駅南口の西筋向いのS・Mホテル。
地下一階にあるメイン・バァは京都駅あたりのさわがしさをよそに、大変落着いた感じで、新幹線に乗る前に、ちょっとカクテルを一、二杯というのも洒落ている。
今日は新幹線に乗らずに一寸歩いて、Gホテルへ。ここのメインバァも大変落着く雰囲気であるが、まだあとはしごの残りが多いので、堀川通りを北へ、やがて左手に見えるのが、Tホテル。
このTホテルのメイン・バァのカウンターにすわって眺める「水の庭」の眺めはすばらしい。そしてこのバァで出される「ドライマーティニ」の味もまたすばらしい。
さらに北に進むと二条城の前にあるのが、Aホテル。新しいホテルであるが、一階に小じんまりとしたバァがある。このバァのカウンターにすわって飲んでいると、ちょうど飛行機のファースト・クラスのキャビンでお酒をいたゞいているような気分になる。
ここから一分間歩くと隣りの、Kホテル。最近大増築があったので、二階にあったメインバァがなくなったのは残念であるが、最上階にあるバァから、四方の夜景を眺めることができ る。また新しく出来た二条城側の入口のラウン ジで、池を眺めながらお酒をいたゞくのも一興である。
川端通りを北に向うと高野橋の手前にあるのが、Hインであり、三階にはアメリカのホテルのバァへ来たという感じのメインバァがある。このバァからは下鴨神社の森はもちろんのこと、西山連峰がパノラマのように望める。 特にすばらしいのは落日の雄大な絵である。
そして更に北に向うと、宝ヶ池の国際会議場 のすぐ隣りに、ローマのコロシアムを思わせる T・Pホテルがある。
東京や各地にあるPホテルのバァと共通な感じのサロン風のバァで、こゝが、「時計の針の方向」廻りのコースの「上り」となるので、乾杯となる次第。