新版 味弥好評判記

某月某日

シューマッハーが「スモール・イズ・ビュー ティフル」 (小さいことは良いことだ)と云って以来、この言葉は長く流行している。 最近では、 「大きいことは良いことだ」と景気を上昇させようという言葉も大いに使われている。
さて、いゝホテルの中に小じんまりとした上品なバァのあるのは楽しいものである。案外人目につかぬところにあるのは、八坂神社の近くにあるGホテルのバァである。カウンターの前の椅子の数はきわめて限られている最も小じんまりしたバァであるが、バーテンダーのマナー も良く、気の合った友人などと食事の前后に静かに飲むには最もふさわしいバァのひとつである。

某月某日

日本アルプスの山々の眺めのすばらしい赤倉 のA・K・ホテルに来ているが、伝統的なこのホテルのバアも小じんまりとしていて、今雨雲の雲海の中にすっぽりと入ってしまっているこのホテルで一杯飲むには最もふさわしい場所である。
フロントデスクから、ダイニングルーム、そしてバァとあらゆるところでのサービスにAクラスをつけられるのはこのホテルである。朝食のテーブルで、コーヒーを飲んでいる頃、その朝の新聞がとどけられるのは、うれしいサービ スである。
ここはホテルのすぐ前がスキー場になっているが、スキーのオフ・シーズンにスロープと遠く、そして近くに見える山々を静かに眺めてい るのはたのしい。
ちょうどヨーロッパより知人たちが来ていたので、このホテルに特別にたのんで、日本の懐石料理のコースをつくってもらったが、これは本当にすばらしいコースであった。
あとあまり多く希望者が出ては困るので、このメニューは秘密にして置きたい。

某月 某日

久しぶりに岡崎にあるK・S・ホテルで食事 をした。ちょうど夏の季節のスペシャル・ディ ナーのコースがあったのでいたゞいたが、ヌー ベル・キジューヌ風のフランス料理で、最初が 活きのよいイカのマリーネ。次がクリームチー ズのスフレ風、そして夏らしくウナギのテリー 又、牛肉のサシミも出て、これはおはしでいただくという趣向。つめたいトマトスープも大変結構で、アワビのコキールも出された。ワインのサービスもあって、お値段の方も大変合点の行く数字であった。
さらにこのウェイトレスはまだ新人らしいが、サービスのABCを真剣に実践している感じで、将来、すぐれたウェイトレスになるだろうと思った。
やはりこのような基本的な訓練を充分にし、 また本人もそれを実践することが、ホテルやレストランのサービスの向上をはかり、高水準の サービスを維持することにつながるものと思う。

某月 某日

ニューヨークから転送されて来たアメリカの F誌を読んでいると面白い記事が出ている。”ではどこのハンバーガーが一番良いのか?” という題で、色々と特徴や調製法のすぐれてい る点を宣伝しているB・M、そしてWという三ツの大きなハンバーガーのチェイン店のハン バーガーとフレンチ・フライズ (フライド・ポ テト)を編集部のメンバーが、試食し採点した結果が出ている。ハンバーガーではB・W、そ してMの順。フレンチ・フライズではW・B、 そしてMの順位であった。
一方店の数ではMが7200店、Bが3000店、そしてWが2500店である。
そこで、編集者はこの結果を次のように皮肉な表現でしめくくっている。
”Mが一番売上げの多いのは、やはり店の方が多いからだろうか?”

某月 某日

本年の夏は、幸に京都を中心に、東京、大阪 へも足ならぬ口を伸ばし、いろいろと美味しい ものをいたゞく機会が多かった。
本号が出るのは季節的には少しずれるが、まあ今年の夏の味のしめくゝりという事で書いて見たい。
友人に会う用事があったので、久しぶりに東 山七条に近いK・P・ホテルのメイン・バァに出掛けた。バァのカウンター越しに眺める夕方の石庭風の庭の眺めはすばらしい。今、日本で は無駄な空間のあること”は最高のぜいたくだと思うが、こゝではそれを本当に痛感する。 二階の奥にあるダイニングルーム “V” で、友人から夕食を御馳走になったが、いわゆ る“ヌーベル・キジーヌ風”であるが、変に味を日本化せずパリのレストランの伝統の味をうかがわせるすばらしいディナーであった。
前菜に出された「フレッシュ・フォグラのソ テー」は正に珍味であって、久しぶりにフランスの美女を口にした感があった。
ひきつづき、お箸を添えて出された「笛吹き ダイのマリネ」は、グリーンの色があざやかなキウイ・ソースの真中に、魚のマリネが浮び上り、新鮮なチェリィが夏の涼感をそった。そのあと、やはりお箸で、「温かいカリフラワー のサラダ」をいたゞいたが、赤ワインの入った マヨネーズソースも結構であった。メイン・ディッシュは、ビーフステーキで、少し大きくな った芽じそ、細かく切ったトマト、きざんだ ピーマン、せん切りのミョウガとセロリィが、 添えられ、それにドレッシングをかけたものを、ステーキの上に乗せていたゞくという趣向である。不思議にステーキに一番会うのは、最も東洋的で、禅の香りさえするミョウガであるといえよう。

あとの、デザートは、白桃とレモンのサラダ で、たっぷりとオリーブ油を使ってあるのが夏の日のアテネやエーゲ海を思わせる。 新鮮なミントの葉の色がうまくマッチしていた。 このホテルの従業員のサービスもいよいよ身について来た感があり、たのしい夏の一夕であ った。

某月某日

真夏の大阪の某ホテルでのパーティに出席し た。立食スタイルで、例によって屋台がいろい ろと並んでいるが、今回は「スッポン仕立ての ソーメン」があり、冷たくしたスッポンのスー プの中にソーメンが浮び上るという大変ぜいた くなソーメンの食べ方である。
さらに、 「ハモ料理」の方もあって、 青葉の上に「ハモのおとし」が少し盛りつけられ、赤いホーズキの皮の中に、ハモ寿司の小さなのが 入っているという、夏の日本の珍味をミニアチュア版にしたものが出された。
立食スタイルの屋台で出されるものも、大体月並みのものも多いが、この場合などまことに”例外的”であった。 これに冷たくしたの から味のシャンペンでもいただけば”夏こそわが季節”と叫びたくなる。

某月某日

東京のホテルに泊っていても、たえず美味しいものを探すため外に出掛けることが多いが、 今年の夏は、特別サービスということで、フランス料理、中華料理、日本料理とも、税、奉仕料込みで、四千八百円均一という事であるので、「江戸会席 夏の御献立」というのを試みた。そのメニューは、

 ごまず和
 フッコ洗い
 柳川鍋
 鮎濃
 白飯・香物
 果物

と、京都風とはまた変った江戸のお味であった。

某月某日

京都へ帰って来た途端に、日本の友人から電話があり、美妓を含めた豪華版の夕食会に招待された。場所は東山区の某料亭。
特筆すべきものを挙げると、見事なギヤマンの大鉢に、かき氷を一杯盛りつけ、ローマングラスを思わせるリュールグラスに新鮮なジュン サイを盛りつけたものを埋め、右横には、自家栽培(これが三回強調された)の日本の美女の小指ぐらいのサイズのキウリを、キウリの葉の上に置いたものを飾りつけていたゞくのはモ ロミ)、さらに真中には、新鮮なアワビのそぎ身。これも夏の夕にふさわしい目と口に最もたのしいお味であった。
あとは、直径三十センチもある黄色の交趾写しのふたつきの陶器が出された。中には京都の夏の味として、賞味されるもののひとつであるハモの柳川風仕立てであった。 また京都にもたのしい秋の季節がはじまる。 街にもお味の方にも色々と大きな変化がある今年の秋である。次のレポートを期待されたい。

某月某日

この雑誌にも何回か書いている中に、東京にも情報が伝ったのか、先日の英文毎日に、”シャンペン・ブランチ”という題名で、東京のN・Oホテルが「日本のホテルではきわめて珍しい革新的な日曜日のブランチをはじめた。 時間は毎日曜日の10時30分から12時30分までである。」――と紹介している。更に記事はつゞ く「おそい朝の食事にさわやかさを添えるためシャンペンが供される。このブランチはビュッフェ形式であるが、ビュッフェ・テーブルで卵やハムやお肉などの温かい料理をつくってサービスしてくれる。」
大体、シャンペンのつきのブランチというも のは、今風の流行語で云えば、”世紀末風”と いうか、洗練された大都会のデカダンスの匂いがするが、これまた反対に案外健康的なのかも知れない。
熱帯地方の蘭の花の香りが一杯のテラスで、 冷たいジン・トニックを二杯ぐらいのんだあと、ライムジュースをかけたパパイアから、はじめる南国風のブランチの方が、デカダンスの匂いが強いかもしれない。

京都の街でも、ある24時間営業のコーヒーショップでは、大変健康的なアメリカン、ブランチなるものが、早やメニューにのっている。 スクランブルド・エッグ(ベーコン入り)、塩パン、サラダ、それにコーヒー、紅茶、オレン ジ・ジュースなどのいづれか一杯という超簡易版のブランチで五百五十円と出ている。
さて、ニューヨークのホテルP・Mでは「あ まりにも有名で、しかも数限りなくお料理の出る”ル・ウィークエンド・ブランチ”」―と何とフランス語風に”ル”のつく週末ブランチは、毎週土曜日の12時から14時30分までサー ビスされる。お値段もお一人、22ドル50セント と高級なお値段である。ちなみにこのホテルの フランスの田舎風のランチビュッフェ形式) は、18ドル50セントであるから、内容は想像できる。
このブランチは単にホテルやレストランだけの流行ではない。
アメリカの大手料理雑誌のひとつ “BON APPETIT” 誌の最近号には、同誌が出している料理の本のひとつ、「ブレークファースト・ア ンド・ブランチ」を紹介している。
尚、この雑誌には、”インフォーマルな家庭でのおもてなしに最適として”アジア風ビュッフェを紹介している。
 その一部を紹介しよう。
 一、ベトナム風小エビ入り冷メン
 二、インドネシア風香味入りチキン
 三、タイ式のつめものをしたムラサキイガイ
 四、コリアンスタイルのネギと松の実入りオイスター
 五、中国風海の幸ゼリイ寄せ
 六、マレーシア風モヤシ入りサラダ
などであって日本のものは入っていない。

某月某日

しばらく東京に出掛けていると、からすま京都ホテルのオープニング、リセプションがあるというので、急いで京都に帰って来た。私が何回も書いているように、新しくよいホテルが出来ると、そのあたりのイメージが大きく変って くる。
京都駅八条口にしても、正面に新都ホテルが出来て、あのあたりは大きな変革をとげつつある。そしてその東側に来春京都京阪ホテルが開業すれば、更に大きな変化が生れる。
からすま京都ホテルは、これまで沈黙を守って来た烏丸通りに、新しい発展のための爆発的な刺戟をあたえることは充分予想できるし、すでその情報も入っている。 烏丸四条を中心とした未来図を書いて見るのも、ひとつのたのしみである。

京洛味弥美之記